バーチャル株主総会について

2020年12月9日

開示・教育支援事業部
教育支援事業部担当 兼 ディスクロージャー調査研究部
執行役員 部長

高橋 義明

1.はじめに

2020年2月26日、経済産業省の「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」)を策定しました。これを受け、2020年3月期決算会社の一部は実際にハイブリッド型バーチャル株主総会を開催しています。新型コロナウイルス感染症の収束時期が不明ななか、次の株主総会でハイブリッド型バーチャル株主総会を計画する会社もあると考えますので、今回、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」を取り上げます。

2.ハイブリッド型バーチャル株主総会とは

株主総会の形態としては、これまでのリアル株主総会(取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会)があり、その対極にバーチャルオンリー型株主総会(リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等がインターネット等の手段を用いて株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会)があります。ところが、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることから、バーチャルオンリー型株主総会は現行の会社法での開催が難しい面があります。
この中間的な形態としてハイブリッド型バーチャル株主総会、具体的にはリアル株主総会を開催する一方で、インターネット等の手段を用いてこれに参加/出席することを許容する形態、があります。この形態を用いることにより、遠隔地等からの株主総会への参加/出席が可能になります。
さらに、このハイブリッド型バーチャル株主総会は、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会(以下「参加型」)、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会(以下「出席型」)の二種に区分されます。
参加型でのインターネット等を用いる参加者(以下「バーチャル参加者」)は、株主総会への法律上の出席ではなく、単にインターネット等を用いて審議等を確認・傍聴することになります。一方、出席型でのインターネット等を用いる出席者(以下「バーチャル出席者」)は、株主総会に会社法上の出席をすることができることとなります。より具体的に言えば、参加型でのバーチャル参加者は、株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使ができず、議決権を行使するには事前の議決権行使や委任状等で代理人による議決権行使が必要となります。一方、出席型でのバーチャル出席者は、株主総会での審議に参加したうえで株主総会決議にも加わることができることとなります。

3.ハイブリッド参加型バーチャル株主総会の運営上の留意事項

参加型は、株主が会社から通知された固有のIDやパスワードによる株主確認を経て、特設されたWEBサイト等で配信される中継動画を傍聴するような形が想定されます。この運営上の留意点は以下の通りです。

(1)参加方法
事前に参加方法を株主に通知する必要があります。その通知方法としては、招集通知の中に記載する方法や、招集通知に同封する方法などが想定されます。

(2)コメント等の受付と対応
参加型の場合、バーチャル参加者は、会社法上の質問(法314条)や動議(法304条等)を行うことはできません。なお、実施ガイドによれば、株主総会の会議中にバーチャル参加者からコメント等を受け付けることについては工夫の余地があり、リアル株主総会の開催中又は終了後に紹介・回答することも考えられるとしています。

4.ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の運営上の留意事項

出席型は、株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、リアル出席株主と共に審議に参加した上、株主総会における決議にも加わるような形態が想定されます。この運営上の留意点は以下になります。

(1)通信手段等の環境整備
出席型においては、バーチャル出席者がインターネット等の手段で決議に加わることから、①経済合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策、②会社側の通信障害についての予め対策及び通信障害が起こりうることの告知、③株主総会にアクセスするために必要な環境やアクセスするための手順についての告知が必要になります。

(2)本人確認
実施ガイドによれば、バーチャル出席者の本人確認にあたっては、事前に株主に送付する議決権行使書面等に、株主毎に固有のIDとパスワード等を記載して送付し、株主がログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法を採用することが妥当とされています。また、代理人の出席はリアル株主総会に限るとすることも妥当な判断と考えられ、そのような取扱いをする場合、その旨を予め招集通知等において株主に通知しておくことが必要と述べています。

(3)その他
実施ガイドでは、その他、「株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係」や「質問や動議の取扱い」などが述べられています。

5.おわりに

日本経済団体連合会の「株主総会におけるオンラインの更なる活用についての提言」(2020年10月13日)によれば、参加型に関しては、映像無しの音声通信のみでの開催が認められることやオンラインでの株主の参加枠(人数)を合理的な範囲に制限できること、また出席型に関しては、信頼性のあるシステムを使用することを前提に仮に通信障害が発生した場合でも企業として合理的判断を経て採用されたシステムであれば十分であること、本人や代理人以外の第三者によるなりすましの危険性についても会社側が本人確認のための合理的な方策をとっていれば十分であること、などを政府のガイドなどで明らかにするよう提言されています。
また、政府の「成長戦略(2020年)」では、バーチャルオンリー型株主総会の在り方に一定の結論を得ること(2020年度中)とされています。
これらの動向も注視しながら、今後、株主総会の開催形態を考えることが重要であると考えます。

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