シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年9月6日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第二回

②「社外取締役」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

1)社外取締役に直接抱負・感想・意見等を要望

<実際に出た質疑応答例>

社外取締役 A氏は○○○(株)の取締役も兼務されている。そことの比較で当社の良いところ、悪いところを教えてほしい。
(A氏)業態が異なることと、○○○(株)はBtoCからBtoBに移行中であり当社との比較は難しい。ただ両社とも真面目、真摯に日本を引っ張っていくという気概を持たれているのは共通。
役員選任議案の16名の取締役のうち、社外は2名今回選任予定。代表してAさん(女性)からどういったスタンスで役員選任に臨まれているのか意見を聞きたい。
(A候補)弁護士という立場でコンプライアンスの点、女性の視点で会社をチェックしていくつもりで臨んでいる。

新任社外候補者が謙遜のつもりで「この会社の優れた点を学びたい」「勉強させていただく」などと言うと、「お前に勉強させるために役員にするんじゃないぞ!」「あんたが会社を成長させるんだ」と怒られるので注意が必要です。

社外取締役はどれだけ会社に貢献しているのか?社外取締役に意見を聞きたい。
(議長)社外の方には個人の見識に基づき取締役会などで活発に意見を言っていただいており、貢献していただいている。日本では、自分から「貢献している」と言うのははばかられる文化があるので私からの発言とさせていただきたい。
社外取締役の実効性について、独立役員会議ではどんなことが話し合われているのか。(招集通知に「独立役員会議」のメンバーの記載あり。)役員の中でも、ここはAさん(女性)に答えてほしい。
(A社外取締役)社外取締役として中立な立場で監督することを意識している。会社としての決定事項がある場合、最終的な経営判断について監督している。当社に常に深くかかわっているわけではないが、社外取締役には法務の方が付いており、その方から社内の状況を聞いているため会社の情報収集は出来ている。
取締役全員の声を聞きたい。1分以内で自己紹介、挨拶をしてほしい。総会で役員に会える機会は1年に1回しかない。
(社長)※時間の制約があることを理由に渋っていたが、株主が退かず、しばらく問答の末社長が譲歩する形で取締役全員が挨拶をしていた。

もはや、「社外取締役って何?」とか「社外の人間に何がわかる」というような低レベルの質問は減少。代わりに社外取締役から活動内容や指摘・助言実績、新任候補者からは直接抱負等を聞きたいという質問が目立ってきました。それに対し、かつては社長が断ったり、代わりに答える(?)ケースが散見されましたが、昨今は社外取締役自身に回答してもらう場面が増えてきました。

社外取締役に対して「この会社を外から見てどう思う?」「そういうことを言うために来たんでしょ?」「教えてくれ、そのために選んだのだから」というのは、株主の自然な気持ち。それを不自然に拒否する、さえぎると疑心が生まれるのではないでしょうか。

選任理由を問う場面も見られました。特に女性社外候補については、「“世の流れなので女性をとりあえず入れた”ということでは困るぞ」という確認の意味もあろうかと思われます。

2)選任理由・兼任について

<実際に出た質疑応答例>

今回の女性社外取締役の選任に関する経緯を教えて欲しい。
当社従業員の90%は女性、2018年の女性管理職は全体の25%、役員は今回の新任を含めると計6名の状況。今後の事業展開において女性目線の意見等は非常に重要と考えているため。
今回の女性社外取締役の選任について、経営経験がない方のようだが、なぜ選任に至ったか?
選任に関しては、高い専門性を有しているかが一つのポイントとなっている。特にIT関連のガバナンス強化に貢献できると判断し、選任に至っている。確かに経営経験はないが、重要な役割と考えている。
社外取締役はどのような基準で選ばれているのか。社内役員とは忌憚ない議論ができているのか。
明文化された選定の基準があるわけではないが、当社の社外取締役は監視役というより、ともに社の発展に向けて進んでいけるかという観点で選んでいる。経営会議では活発な議論ができている。
自社の不祥事もチェックできない人物を候補者とするのはおかしいのではないか。
意見として伺っておく。

「社内の役員では不祥事を見抜けない場合もあるので、社外の方々に入っていただくのです」という回答も良いと思います。

社外取締役のA氏が欠席とのことだが、なぜなのか教えてほしい。選んだ理由も教えてほしい。
欠席の理由について詳細は言えない。選任理由は先ほども説明したとおり。知識・経験があり、利害関係がなく、職務をお願いするのに支障がない方ととらえている。

「一年に一度の株主総会に欠席とは何たることか。」「これでは普段の取締役会も本当に出ているのか?」と思うのは、一般株主の自然な気持ちでしょう。欠席の理由は「他社と重なってそちらを優先したから」というのが多いのではと思いますが、これは絶対に言えません。「諸般の事情」で押し通す以外にないでしょう。間違っても「体調不良」等健康上の理由にしてはいけません。もちろん本当に健康上の理由であればその旨はっきりと伝えるべきですが、うそを言うのは良くありません。

社外取締役は兼職を少なくして欲しい。特に女性の社外取締役への期待は大きい。
社外取締役の方からは経営の観点で大変助言を頂いており、出席率は約97%と高い。兼任は特に大きな問題では無いと認識している。
社外役員の兼任が多すぎる。4社以上ばかり。ちゃんと仕事できるのか。そんな片手間でできるような仕事ならば株主から抽選で選任してはどうか。
他社に先駆けて社外役員を入れている。経験・知識などを見て特別な利害関係かないかチェックし、職務に支障がないかも確認したうえで候補者としている。

こういう質問をする株主は社外取締役の仕事を理解していないと思われます。社外取締役に求めるのは執行でなく監督・助言であると伝え、「例えば当社の仕入れ先は何百社とあるが、どこもしっかり監督しております」というような例をうまく伝えられると良いでしょう。

3)社外取締役の株式保有

<実際に出た質疑応答例>

社外取締役も株を保有するべきではないか。
社外取締役に株を持っていただく呼びかけはインサイダーにあたるため出来ない。
2号議案の取締役選任議案について。社長をはじめ7名中6名が株を持っていないが、なぜか?
株主の皆様と目線を合わせて努力していくことも必要と感じており、今後株を持つことについて方法なども含めて検討している。
株を持っていない役員は持ったらどうか?
株を持っていない役員は社外役員のみ。客観性を担保するためのもの。
社外取締役で株を持っていない人がいるが、それでよいのか。
株式の保有の有無に関わらず監督していただく。

本件ですが、株主の見解は二通り考えられます。回答にあたっては会社のスタンスをしっかり固めておくべきと思われます。

  • 賛成(肯定)派の見解:「役員は株主の代表として株主と同じ船に乗り、会社の価値向上に努めていただきたい。それなのに株を持っていないとは何事か。株の保有は常識。義務といっても良い。」
  • 反対(否定)派の見解:「以前から保有していたならともかく、候補になると決まって購入するというのはインサイダーのからみがあって良くない。また、個人で株を保有すると、自社の利益・株価の上下に目が行き、公正中立な判断が出来なくなる。また、環境や社会貢献等への意識も高まらなくなる。」

4)取締役会の機能・実効性

<実際に出た質疑応答例>

2017年にガバナンス強化で行ったこと、2020年までにやるべき課題を教えてほしい。
2017年としては取締役会機能の自己評価を行った。取締役それぞれにアンケートをとり、実効性・機能の確認を行った。今回の議案にあるように相談役を廃止したのもその一環。また、今後はダイバーシティを重視し、色々な人と議論していきたい。

企業の不祥事が相次いでいます。そのたびに、取締役会の機能が問題視されています。取締役には高い報酬が支払われているが、それに見合う働きがなされているのか?社外取締役を入れるのはいいが、きちんと監督・助言・指摘等をしてくれているのか?取締役会が、社長や会長には何も言えない集まりになってはいないか?活発な議論がなされているのか?という点です。これらは株主総会でも質問として出る可能性があります。

5)役員報酬

<実際に出た質疑応答例>

役員報酬改定議案に反対。株主への配当をおざなりにして役員の報酬を上げるのは反対だ。
昨年は報酬ゼロで働いた。黒字化したらもらうとも言っていた。給料をもらうのは当然のことだ。経営を正常化し、次の経営者を育てるためにも上げておきたい。
配当金はわずかしか伸びていないのに役員報酬が25%も伸びているのはなぜか。
良い人材確保には報酬が要る。必要コストであるという認識。
第○号議案について 報酬をもらいすぎではないか?世界ではいたる所で貧困問題等があるのだからもっと社会に還元すべきでは?
報酬の額については報酬・諮問委員会で決めており、相当だと思っている。ESGの観点から社会貢献活動を行っている。

「“赤字なのに”、または“配当が減った・少ない・据え置きなのに”、あるいは“不祥事があったのに”、役員報酬が増えるとは何事か」。あるいは招集通知を見て「役員はこんなに報酬を得ているのか、もらい過ぎだ」というような発言が出ることがあります。

これは日本人特有の妬み感情からきていることが多いです。企業のトップが多額の報酬をもらっている場合、欧米では、「能力も責任もあるから当然だろう。誰でもああいう風になればあれだけもらえる。欲しければなればいい。頑張ろう」と受け止められますが、「オレはこれっぽっちしか収入が無いのに、コイツらはこんなにもらいやがって。許せない!」という感情が支配してしまうのです。

本来は、会社役員として何千億円という売上とともに何百億円という利益を上げ続け、時価総額○兆円、○万人の従業員・家族、ステークホルダーの生活と持続的な成長を支えている重責を理解してもらうべきですが、それには日頃の対話と情報開示が欠かせないものとなります!

「この金額は、社外取締役中心の報酬委員会で専門の算定機関も交えて算出したものであり、いわゆるお手盛りではない。他社比較やグローバルな水準からみても適性であると考えている」というのが適切な回答例です。

特に外国人役員については、「株主からも要請があるように、グローバル展開を進めるにはどうしても必要だが、海外の報酬水準は日本のそれより数倍も高く、優秀な人材を取ろうと思えばそれなりの待遇をしないと来てもらえないという現実がある」ということも説明すべきでしょう。

次回は、これも話題として頻発する「株価(の低迷)」「株主還元」について取り上げます!

この連載中に記載した青色文字のコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

ナレッジ一覧に戻る