専門性と正確性が最大の強み
日本財務翻訳松本社長インタビュー

2017年12月22日

D事業部 IRソリューション部
上席専任部長

臼井 俊文

今回は、日本財務翻訳株式会社 松本社長とのインタビューを掲載します。
英文開示のトレンドや裏話などうかがいました。英文文書に携わる読者の皆様の多少なりともお役に立てば幸いです。

日本財務翻訳(財翻)とは

設立は2016年12月。企業の財務情報を英文で提供するサービスに特化しており、決算短信、招集通知、有価証券報告書などの英訳、組替英文財務諸表の作成が業務の中心となっています。英文招集通知については国内トップシェアを有し、多くの上場企業から高い評価を得ています。制作物の品質に定評があり、限られた時間で英文での法定開示や適時開示に取り組む企業にとって強力なパートナーとなっています。株式会社プロネクサスの100%子会社として、両社一体で上場企業の英文開示支援に取り組んでいます。

日本財務翻訳松本社長インタビュー

(写真右、日本財務翻訳株式会社 代表取締役社長 松本 智子氏)

■他社との違い

臼井「一般の翻訳会社との違いをあらためて教えて下さい」

松本「翻訳会社の多くが広い分野、多言語でご対応されているの対して、当社は、財務という専門分野と日英翻訳に領域を絞り、専門性を高めていることです」

臼 「広く浅くではなく、狭く深くが特徴ということでしょうか?」

松 「はい。対象領域をむやみに拡げず、会社法や金商法といった関係法規や会計基準の違いからタクソノミ改訂の内容まで、翻訳する文書に関係する知識や最新情報を熟知した上で作業をしています。社員研修を徹底しており、編集者やチェッカー等スタッフ全員が一律に高い専門性を持つことで、お客様のご要望に沿った正確な成果物をお届けできるのが強みと考えております」

臼 「宣伝ありがとうございます(笑)」

松 「社員研修では、新人向けに「財務諸表分析入門」や、招集通知の内容に関連する毎年の「会社法の変更点」などプロネクサス主催のセミナーにも積極的に参加させていただいています」

臼 「お役に立てて幸いです」

■近年の英文開示の傾向

臼 「最近の企業の英文開示の傾向でお気づきの点は何かありますか?」

松 「コーポレートガバナンス・コード施行の影響で、一昨年、昨年と招集通知を新規で英訳したいとのご要望が急増しました。今では企業数としては安定してきましたが、和文で記載内容を充実させる動きがありますので、その分翻訳の量も増える傾向があります。また、従来企業内の各部署で別々に作成されていた英文文書を、全社で連携をとって一括外注するという流れもありますね。ウェブサイト、短信、招集通知、決算説明会資料、有報、アニュアルレポート(統合報告書)などの作成作業を一元的に集約したいとのご相談が増えています」

臼 「縦割りであったものに横串を刺すということでしょうか」

松 「複数部署で同じような内容の原稿を別々に英訳していたり、会社として統一感のない文書がウェブサイトに掲載されていたり、といった状況を改善したいというご要望です。また、決算後には、短信、招集通知、有価証券報告書の和文原稿を作成しながら英文版も進行させることになり、業務負担が集中してかなりの残業が発生しているという現状もあります。働き方改革を進める企業様が増え、社内で手をかけていた業務をアウトソースすることによって社内の作業負担を軽減したいとのご意向です」

臼 「担当者の期待は作業を楽にしたい、企業からの期待は残業時間の削減、というところですね」

■外注するとお客様の作業負荷は下がる?

日本財務翻訳松本社長インタビュー

臼 「一方では、外注するより事情が分かっている社内でやった方が早いし、ミスも少ないだろうという考えもあるのではないでしょうか」

松 「確かに自社の業務や社内用語に精通した社員が作成すれば、早くできるかもしれませんが、招集通知や有価証券報告書などページ数の多い翻訳文書を作成するにはかなりの労力がかかります。IFRS(国際会計報告基準)に移行されますと有価証券報告書のボリュームがさらに増えますし、初度適用時は特に大変です。また、招集通知は直前まで和文の原稿に修正が入りますので、和文版と英文版の管理にも神経を使います。当社では、お客様の事業内容や業界用語をきちんと調べ、顧客別のデータベースを作成して、迅速で正確な原稿をご提出できる仕組みを構築しています。また、企業情報を英訳する場合、お客様ごとにすでにお使いの訳語があることもあり、また、業界用語、技術用語などにも定訳があります。会計用語は言うまでもありません。こうした情報がきちんと調べられ、訳されて初めて、お客様負荷低減が可能になります」

臼 「お客様がチェックをする必要はないのでしょうか」

松 「まったく必要ないわけではありません。和文の意図通りの英文になっているか、会社独自の製品名や人名などは必ずご確認いただく必要があります。特に見ていただきたいところや重要な点にはハイライトやコメントを付け、お客様のご確認が漏れないように工夫をしています」

臼 「そうしたきめの細かいサービスも価格に含まれているのですね」

松 「はい。翻訳料金が安い理由として、調べものに十分な時間をかけていなかったり専門知識のない人が作業をしていたりすることが多々あります。あるお客様からは長年お仕事をいただいていますが、最初はなかなかご発注いただけませんでした。その会社の社内掲示板に翻訳会社数社の情報が掲載されていて、当社の価格が一番高かったからです。たまたま当社にご発注いただく機会があり、初めてお仕事させて頂きました。その結果、ご担当者様が、『高いけどチェック時間が大幅減』と掲示板に書き込んでくださったことから徐々にお仕事が増え、今では年中お仕事をいただけるようになりました。総務の方からは『もう価格を下げて欲しいとは言いません。現場からは品質を下げないで欲しいとの要望が一番強いので、今のレベルを維持してください』とのお言葉をいただきました」

■企業様が財翻を使いこなすには

臼 「すでにご用命いただいているお客様、これからお取引いただくお客様に対して、財翻をこういうふうに使っていただくと企業様にメリットがあるということはありますか?」

松 「お見積りの依頼をいただく際に、ご依頼の意図を教えていただけると、ご要望にフィットするご提案ができると思います」

臼 「意図といいますと」

松 「背景情報とも言えますが、例えば、他のご依頼とあわせてワンストップで済ませたいとか、社内チェックによる残業を減らしたいとか、従来の翻訳に不満があるとか、英語と会計の分かるご担当者の方が異動で不在になって困っている、といったことです。「ワンストップで」とのご要望でしたら、プロネクサスで作成している各種和文原稿の作成日程を照合して全体最適での日程案をご提示し、複数文書を同時に進行させるノウハウなどを活用し、ワンストップのメリットを最大化できるご提案をさせていただきます」

臼 「なるほど。他にも何かありますか」

松 「英訳するには日本語の原稿が原文になりますので、日本語の原稿の段階で読み間違いのない文章を作成していただけますと、確認のためのやり取りも減り、効率化にもつながると思います。例えば、

日本財務翻訳松本社長インタビュー
  • ●スポーツ施設やホテルのプールの清掃受託
    という文章があった場合、
  • ●「スポーツ施設やホテル」のプールの清掃受託
    なのか、
  • ●「スポーツ施設」や「ホテルのプール」の清掃受託
    なのか、構文上も意味的にもどちらにも解釈できます。その場合、文書内に別の説明がないか、他の文書やウェブサイトに手がかりになるような記載がないかを探して解釈の裏づけを取る作業を行うことになります。さらに、お客様にも確認いただく手間もかかってしまいます。後者の意味である場合は、
  • ●スポーツ施設や、ホテルのプールの清掃受託
    としていただけば、解釈が分かれることがなく、悩んだり確認いただいたりする手間が不要となります。
    もう一例ご紹介させていただきますと、
  • ●30億円の物件購入のための借入金増加額
    という文章で、物件価格が30億円かと思いきや、借入金増加額が30億円だったということもありました。文章だけで明確に伝わる原文にしていただけると、とても助かります。

■社内で英訳される際のコツ

臼 「お客様ご自身が社内で英訳文書を作成されている場合、なにかアドバイスはありますか?」

松 「時折、社内で作成された英訳のチェックを承ることがあります。ボリュームの多い文書での依頼が多いのですが、どの企業様の文書も修正が必要な箇所には共通点があります。

  • ①用語の整合が取れていない
    (「株主総会」のmeeting of shareholdersが途中からshareholders' meetingになっている)
  • ②会計用語が基準と合っていない
    (IFRSの場合は基準書の記載に合わせる(基準書は原文が英語ですので、「合わせる」というより「戻す」というべきかも)必要がありますが、日本語からの直訳になっていて、IFRSの基準書と合っていないことが時々見受けられます)
  • ③法令名などに定訳が使われていない
    (例えば、「会社法」は、かつてCorporate Lawと、他も採用されていましたが、今ではCompanies Actが定訳となっています。法務省が運営する「日本法令外国語訳データベースシステム」にこうした多くの日本の法令名、条文の英訳が収録されています)

などです」

臼 「誤訳の指摘というよりも、翻訳のルール違反や整合性についての指摘といえますか?」

松 「そうですね。もちろん誤訳や訳抜け、数字の間違いは指摘させていただくのですが、ここでご説明させていただいた点は、こうしたルールをご存知ないことが原因だと思われますので、ただ修正するだけでなく、何を根拠に(例えば「IFRSの基準書に基づくと、正しくはXXXXになります」など)翻訳すべきかをご指摘させていただくようにしています」

■今後の展望

臼 「これまで順調に伸びてきたように思いますが、今後はどのように考えていますか?」

松 「人の力量のみに頼った翻訳業ですと、世の中のスピードについていけなくなります。ITを活用したツールを開発して作業の効率化を図り、過去の翻訳資産を活用することによって、お客様に満足いただける品質のものをタイムリーに提出できると考えています。最近は開示文書だけでなく、様々な目的で使われる多様な文書の作成も求められますので、用途に合った最適な翻訳を迅速に作成できるよう、対応力の強化にも努めています」

臼 「企業における翻訳需要は伸びるのでしょうか?」

松 「ディスクロージャー翻訳が上場3600社にあまねく拡がっていくとは思いません。内需に特化していたり、外国人投資家比率も高くないという企業様も多いですから、どこかで頭打ちになると思います。1000社くらいが一つの目安ではないでしょうか。ただ、今日のグローバル化した企業の活動には様々な翻訳が必要とされており、今後もさらに拡がっていくと思いますので、英訳需要は底堅いと思います。パイは今後も確実に大きくなっていくといえます」

臼 「ますますの事業の発展を期待しております。本日はありがとうございました」

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