シリーズ「今年の株主総会 質疑応答の話題」
~その傾向から、個人株主と会社側双方の成長を見る~

2018年8月10日

ディスクロージャー事業部 IRソリューション部 イベント制作部担当
執行役員 部長

伊藤 直司

今年の株主総会 質疑応答の話題

連載第一回

はじめに

当社では、お得意先を含め多数の会社の株主総会に株主としてあるいはお客様のご要請やご了解のもと社員が出席させていただいております。そして各社が全体の運営や議事進行で工夫されている点を書き留めまして、帰社後に「株主総会参加レポート」として社内で共有しております。

今回はそうしたレポートの中から、旬な話題の質疑応答(良く出た質問、素晴らしいと思った回答等)をお得意先の皆様とも共有したいと思い、特別企画として、今回を第一回として7回程度連載してまいります。これまでのように間を空けずにご紹介したいと思っております。

企業の総会ご担当者は他社の総会にはなかなか出席できないのではないでしょうか。ここに掲載させていただくものは、どれもこの3月から6月の各社の株主総会で実際に出た質問であり、実際に会社側から回答されたものです。ご自身の代わりに出席した人からお話を聞くようなおつもりでお読みいただければと思います。

私はというと、前職のHOYA(株)でIRとともに株主総会も20年近く担当しました。その間には、当局の要請に先駆けた社外役員の招聘から、招集通知の発送・開催日の早期化、株式分割による株主数の15倍もの増加、おびただしい数の株主提案、動議の提出、お土産の中止・復活また廃止、会場の二転三転まで、色々なことがありました。

そうした経験から、僭越ではありますが、質疑応答例の後にコメントを加えさせていただきました。ただし、これは個人的な意見・感想であり、当社としての統一見解ではありませんのでご承知おきください。あくまで、「こう言っている人もいる」くらいにとどめていただき、何らかのご参考にしていただければ幸甚です。また、総会で出たすべての話題をくまなく網羅しているわけではありません。

内容的にご不明の点がありましたらご遠慮なくお問い合わせ下さい。それではさっそく始めましょう!

①「女性活用・外国人登用・ダイバーシティ」

※文中のQおよびAはすべて株主総会の会場で実際に出た質問と回答です。青色文字は筆者の個人的コメントです。

<実際に出た質疑応答例>

●女性活用について

女性活用が世の趨勢だが、当社には女性取締役が居ないことが残念。何か方針は?
社是として、男性・女性、大卒・高卒という区別はしていない。取締役ではないが女性執行役員も2名居る。(壇上にて本人紹介)男性を押しのける女性陣も今後益々増えて来ると思う。
女性の活躍について、取締役に女性がいないがどうしてなのか?
経験や技能を考慮している。性別で判断はしていない。また、今後女性の活躍を増やしていくための計画もしている。もう少し待っていて欲しい。
(壇上の役員の中に)女性がいないのは?
これまで商社の仕事はハードワークという面もあり、女性に機会が少なかった。徐々に改善している。管理職に占める割合も増えている。
女性登用について。壇上には○○さん位しかいないが。
子会社、グループ会社社長に女性社長が複数名いる。
役員全員が男性なので女性の取締役を登用してほしい。
社会的な要請もあり、女性の管理職は育てていきたいと考えている。
壇上の役員みても女性は二人。回答者は全員男性。女性の登用についてどういう方針なのか。
社員の50%超、国内管理職の15%は女性で年々高まっている。
取締役16名選任とのことだが、社内の女性社員の中からも取締役選任を検討してほしい。
女性、男性にとらわれず、能力、人間性が一番大事である。女性でそういった方がいれば検討していきたい。ちなみに、女性管理者は18.5%、従業員にしめる女性の割合は42%となっている。
女性の管理職は何%か。現在は女性役員が1人しかいないが、2、3人は置いてほしい。
17年末で女性管理職は3.2%。理由として、そもそも社員の女性比率が18%ほどしかないことがある。採用では女性社員が3~4割を占めているほか、管理職手前の女性社員の研修等も行っている。IT化に伴う働き方の変化に伴い、事務ではなく総合職的な仕事の付与も行っているので、ゆくゆくは女性取締役も増やしていきたいと思っている。
女性管理職25%の内訳は?
管理職908名。その内、部長クラス35名、課長クラス約800名。引き続き推進したい。
女性の活躍の場はきちんとありますか?
女性の活躍は重要な経営課題にもなっている。現在は1名の女性役員がおり、女性の管理職は69名いる。今後も女性の管理職を増やしていく予定。
もう少し会社として、女性の力を活用してほしい。
女性の活用は重要と考えている。現場でも経営としても検討していく。ただせっかく良い女性の人材でもやめざるを得ないことも出ている。結婚、出産等でも復帰できるようなプログラムを整備する等会社として女性が働きやすい環境を整えている。そんな中、女性の執行役員が今年中に出てくる予定。

●外国人登用、ダイバーシティについて

ダイバーシティ経営を掲げているが、当社経営陣には女性も外国人もいないようだか?
傘下のA社の新卒採用で文系の3分の1は女性、理系でも1割は女性となってきた。B社では常務執行役員に初めて女性が就任した。外国人採用も10%ほど進めている。まだまだこのような状況なので経営陣までは時間がかかる。
外国人社員や女性社員の取締役や重役への選任は考えられるか?
現場レベルでの重要ポストに外国人社員や女性社員が就いている部署・地域もある。今後、取締役に値する能力・知見を持った人物が現れれば、選任は有りうる。ただし、直近での予定はない。
役員構成のダイバーシティについて、競合より平均年齢が高い。外国人も起用してほしい。
役員に求められるのは「経験」である。年齢にはこだわらず候補者を探している。役員構成にダイバーシティは重要。年齢・性別、国内外を問わず、人材の起用を進めていく。
①執行役、取締役の、外国人、女性登用について、どのような方針を持っているか。②外国人の、特に若者の採用、教育について知りたい。
女性については、持続的成長に欠かせない要素。研修、教育を行っている。階層別研修では、次を目指してほしいという会社の立場を伝え、上司に対しても目的を伝え、フォローアップをするよう強く求めている。また、仕組み作りを行い、ライフイベントへの支援として、企業内保育園や、在宅・時差勤務、保活や介護に関するコンシェルジュサービスも提供している。外国人については、グローバル人事室というのを設け取り組んでいる。ネームバリューもあり若者も集まっているので、今後とも取り組んでいきたい。
外国人取締役がいない。海外比率が高いのだから検討してみてはどうか?
ご指摘通り。グローバルな展開も考慮し前向きに検討します。
グローバル化に向けて日本人の取締役ばかりで大丈夫なのか。
海外の拠点では海外の方に責任者になってもらっている拠点もある。

■筆者コメント

今年の株主総会における質疑応答の最も旬の話題の一つです。総会の壇上に並ぶ役員の姿がその会社を象徴していると考えますと、そこに一人の女性もいない場合は必ず追及されると思っていたほうがいいでしょう。今までは一人でもいればよかったですが、今年は「女性を2人以上に」という注文も出ています。グローバルを力説する会社は外国人の登用も聞かれます。

この種の質問は女性の進出を願う女性株主から出る比率が他の話題より多いです。
最低、女性(外国人)社員、女性(外国人)管理職の人数と比率を押さえておきましょう。

また、「女性(外国人)の活用に力を入れていく、登用を進めていく」と回答するのは良いですが、度が過ぎるとかえって「男女平等に反する」「実力主義ではないのか」との指摘を受けることがあります。ご注意ください。

「認識しており、努力している。差別等はないが、○○であるため現状はまだ○○だ」という回答が無理がなく受け入れられるようです。「増やすために○○をしている」があるとなお良いと思います。

女性や外国人を執行役員に登用されている会社も多いと思いますが、株主総会の場には登壇されないため、ご理解頂けない場合もありますから、併せてこの点もご説明するのがよろしいかと思われます。そういうポジションには女性が結構いらっしゃるのなら、この機会に壇上に上げるのも手かもしれません。

次回は、これも話題として多い「社外取締役」「役員報酬」について取り上げてみます!

この連載中に記載した青色文字のコメントは、全て筆者の個人的な見解であり、過去および現在所属する組織の統一見解ではありません。正確な情報と長年の経験に基づいて提供しておりますが、内容の正確性につきましては免責させていただきます。それぞれの見解につき、組織としてその導入・採用を推奨するものではありません。実際の運用に際しましては、専門家である弁護士、証券代行機関等の方々にご相談いただきますようお願いいたします。

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